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鹿児島家庭裁判所 昭和32年(家)888号 審判

申立人 永井キミ(仮名)

相手方 大迫ヤエ(仮名)

主文

被相続人大迫誠の遺産をつぎのとおり分割する。

鹿児島市○○○町○○番家屋番号同町○○○番木造板葺平屋建店舗一棟建坪一三坪二合五勺(現況は一九坪)のうち、別紙図面に示すとおり仕切壁をもつて区画された北東側の部分(道路からみて左側の店舗、これに続く三畳二間及び台所等)を申立人の所有とし、その南西側の部分(現在相手方が使用している部分)を相手方の所有とする。

理由

一  共同相続人と相続財産の確定

記録編綴の各戸籍謄本によれば、被相続人大迫誠は昭和二六年○月○日鹿児島市○○○町○○番地で死亡し、本件遺産相続はこの時に開始し、その共同遺産相続人は被相続人の死亡当時における妻である申立人と被相続人の実母である相手方の二人であること、したがつて、その法定相続分の比率は同等であることが認められる。

また、記録編綴の建物登記簿謄本及び申立人に対する調査審問の結果によれば、主文掲記の建物(以下本件建物と略称する)が被相続人の遺産であることが認められ、当事者双方とも右以外に他に分割すべき相続財産の現存を主張せず、調査の結果も他に発見できないので、右建物をもつて唯一の相続財産と認める。もつとも、相手方は調停の席上右建物が被相続人の単独所有であることを争つていたが、右主張は前掲証拠ならびに調停、審判の全経過に徴し採用しがたい。

二  遺産分割につき斟酌さるべき事情

よつて、つぎに、右建物の分割方法につき考える。

この点に関し、調査、審問の結果知りえた事項中(別件記録――昭和三一年(家)第九三六号遺産分割事件――における調査、審問、鑑定等の結果をも含む)斟酌すべき主要な事情は以下述べるとおりである。

(1)  申立人側の事情

申立人は当三五年の婦人で、昭和二三年○月頃被相続人と事実上の夫婦となり、昭和二四年○月入籍し、被相続人が建築した本件建物に同棲して来た。当時、被相続人は右建物で生果商を営んでおり、その同居者としては被相続人の実母である相手方、妹サト子、弟正、弟鉄夫、弟幸男等がいた。なおその頃被相続人の兄和雄夫婦が福岡県より来鹿し、本件建物の裏側に三坪余の平屋建居宅を建築して、同夫婦がここに同棲した。

しかるところ、申立人夫婦と相手方及び被相続人の弟正とはとかく円満を欠き、昭和二三年暮頃には、家族協議のうえ、本件建物を別紙図面中太線で示す線によつて分割し、その北東側に申立人夫婦、その南西側に相手方を含むその他の家族が居住するようになつた。その後昭和二五年○月中に被相続人の兄和雄が死亡したが、その後昭和二六年○月○日被相続人はその弟正のために殺害されるに至り、ここに本件相続が開始した。申立人は夫死亡後約一年位の間被相続人と同棲した本件建物の上記部分に居住していたが、その後申立人はこの部分を他に賃貸して自らの生活費にあてて来た。申立人は目下肩書住所に単身居住し、上記賃貸料八〇〇〇円と洋裁による賃仕事で生計を営んでいるものである。

なお、本件建物の税金等は従来すべて申立人において支払つて来ており、申立人が現在他に賃貸している部分の便所、押入、棚等は被相続人死亡後、申立人の費用で申立人が増築したものである。なおまた、申立人は被相続人である夫死亡後は、上記家賃収入を得ている外なんらの財産分与、ないし生活保障をも受けていないものである。

(2)  相手方側の事情

(1)に述べたところで、すでに相手方側に関する事情にもふれたのであるが、相手方の現下の生活状況はつぎの通りである。相手方は当六一年の婦人で、その亡夫との間に五男三女をもうけ、二男和雄、三男誠(本件被相続人。長男は幼時死亡)長女、二女、三女、五男、六男はそれぞれ他家に嫁し、または独立し、現在は四男正当二九才とその妻静子当二六才とともに本件建物の南側の部分に居住しているものである。しこうして、相手方家族には本件遺産分割の対象たる上記建物と、別件(当庁昭和三一年(家)第九三六号遺産分割事件)において遺産分割の対象となつている宅地実測二九坪二合六勺(本件建物の敷地)及び右宅地上の平屋建居宅一棟建坪三坪余の外とり立てていうべき資産はなく、四男正が本件建物の南西側の店舗で菓子商を営んでおり、その場所柄は当市内における一等地であるが、調停委員会における現場視察及び調査の結果によれば、その営業状態は貧弱であり、その収入は漸く家族三人が生計を立てうる程度としか思はれない。なお、相手方は別件で問題となつている上記三坪余の建物を他に賃貸して月一五〇〇円の賃料を得ている状態である。

(3)  本件家屋の現況

本件建物は、昭和二二年一月頃被相続人が建てたもので、鹿児島市の最も繁華街に位置している。その建坪は鑑定の結果によると実測二二坪七勺である。この建物のうち、その北東側の部分(実測八・九七坪)を申立人が貸主となつて他に賃貸していること(現在は宝石等飾物の店舗及び居宅となつている)及び、その南西側の部分(実測一〇・〇二坪)を相手方家族において使用していることは既に上記のとおりであり、そのそれぞれの間取り等の状況は別紙図面のとおりである。すなわち、この建物は一棟ではあるが二個の居宅附店舗として使用せられ、その境界には仕切り壁があつて、互に独立して利用できるようになつている。

すなわち本件建物は既に利用上の可分物と化している。

三  分割方法

以上(1)、(2)の生活事情によれば分割に当つての比率は法定相続分通り大体において平等分割を相当とし、その分割方法としては、本来は相手方において支払うべき資産収入さえあれば、相手方から申立人に金銭を支払わせ、相手方に本件建物を取得せしめるのを相当とするが、相手方にこれという資産がないのでこの方法は困難であり、また、相手方家族が現に本件建物に居住していてこれが生計生活の本拠となつていることを考えると結局現物分割以外に他に適当な方法は発見し得ない。しこうして、現物分割となると、既に(3)において述べたように本件建物はすでに利用上の可分物として前示仕切り壁を境界として各々独立に処分の対象となつており、北東側部分は申立人において、南西側部分は相手方において、それぞれ使用収益しているので、その使用の現況に応じて現物分割するのが実情に即し、かつ、法定相続分の比率にも大体符合する。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 伊東秀郎)

見取図〈省略〉

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